敵影
古処誠二
新潮社 2007-07-27
asin:4104629030
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★★★★☆
物語は、昭和20年8月14日、沖縄の捕虜収容所で二人の人間を血眼で探している男の話。捜しているという一人は、命の恩人である女学生の高洲ミヨ。もう一人は、ミヨを死に追いやったと思われる阿賀野という男である。主人公は、腹に被弾して腸がはみ出し生死をさまよっていたところを陸軍病院に担ぎ込まれて一命を取り留める。その病院で散々ミヨに世話になり、また病院撤退のときにもミヨの機転で助けてもらう。執念の調査でしだいにミヨの消息がわかっていくが、同時に阿賀野の意外な正体も明らかになっていく。
無駄な描写は一切なく、淡々と語っていく文章の硬さは相変わらず。読めない漢字も多く、ここまで読者を意識していない作者もいないだろうと思えるくらいエンターテイメントから程遠い。それなのにときたま出てくる熱い描写にやられてしまうのである。たとえば、主人公が被弾したとき、あるいは病院撤退時の描写である。そしてこの身のうちに湧き上がる熱さこそが、古処の作品を読みたいと切実に思う気持ちなのだ。知りたい。ただそれだけのことである。