ダイイング・アイ/東野圭吾

ダイイング・アイ

ダイイング・アイ

 ★★★★☆
 なあ〜んだ。やっぱり面白いじゃないの、東野圭吾
 本が出たとき、金欠で買わないでいたら、どうやら不評のようなのである。なので、これは図書館で借りるほうが無難だろうと辛抱強く待って、このたび有難く読ませてもらった。
 冒頭、いきなり深夜に自転車を漕ぐ若い女性の描写である。なんだってこんな時間に自転車なんかに乗っているんだ、と危惧していたら、案の定、凄まじい交通事故の描写である。人が死んでいく瞬間をまるでスローモーションのように描いていくのだから、さすが東野圭吾だ、と思わず唸ってしまった。それほど秀逸なのである。
 さて、ここからこの物語が始まるのであるが、いったい何故こんな事故が起きてしまったのか、運転していた奴は誰なんだ、ということが頭から離れない。どうやらバーテンが事故を起こした本人であり、この物語の主人公のようである。ところが、何者かに頭を殴られて病院に担ぎ込まれた主人公は、交通事故のことをすっかり忘れており、記憶の一部が抜け落ちてしまうのである。記憶を取り戻したいと思った彼は、刑事の真似事を始めるのだった。彼が動くたびに謎が一つ増えるのである。読者はいったいこの先にどんな真実が待っているのかと、ぞくぞくしながら読んでいくことになる。
 冒頭のあまりの素晴らしさに眩暈がしながら、これほど面白い書き出しだと、中盤が辛いかなと思ったのであるが、主人公の魅力も手伝って、謎を引っ張っていく書きぶりは、なかなかどうして面白かった。ただ、読書サービスとしか思えない濡れ場は必要ないし、派手な演出とオチの平凡さがこの作品を中庸なものにしてしまっていたのが、残念。とはいえ、ミステリ仕立てのサスペンスというのか、ホラーも加えた奇抜な発想は、最後まで一気に読ませる力があり、面白かった。
 ということで、オカルトチックな変な小説を読みたいという方に激しくお薦め。