この『ずっとお城で暮らしてる』は、先月、東京創元社より新訳asin:4488583024で刊行されてます。桜庭一樹氏が「すべての善人に読まれるべき、本の形をした怪物である」と紹介されているのを見てもう一度読みたいと思いました。それで昨年2006年7月2日にはてなに感想を書いたのがキャッシュで残っていたので再録しておきたいと思います。星の数もレビューもまったく当時のままです。その時にコメントとトラックバックも頂いておりますので「続きを読む」からお読み頂ければと思います。それでは。
asin:4054004458/学習研究社/1994/12
★★★★☆
お城のような大きなお屋敷に住んでいる「わたし」は、メアリー・キャサリン・ブラックウッド、十八歳。屋敷から一歩も出ない姉のコンスタンスと半身不随のジュリアン伯父さんの三人で暮らしている。
冒頭の「わたし」の語りから、一気に彼らの奇妙な田舎の暮らしに引き込まれてゆく。周囲の人物たちの接し方が普通じゃないのが居心地が悪くて、首を傾けてしまうのだが、何がどうなっているのか、読んでも読んでもわからない。それは、語り手の「わたし」が年齢以上に幼くまともじゃないからだ。果たして彼女の言葉を信じてもいいのだろうかという不信感が常に付き纏うのである。
徐々に、彼らを取り巻く周囲の不穏さとともに過去の惨事が明らかになっていく。六年前、毒入りの砂糖をかけたヤブイチゴを食べたために、彼らを残してブラックウッド夫妻を含む屋敷の人たちが亡くなった。村中の者が、砂糖をかけなかった長女のコンスタンスを疑うのだが、なんの証拠もなく釈放されてしまう。以来、屋敷に閉じこもったまま三人で“お城”を築き自分たちの世界を完結させていく。ところが、この一見奇妙だが平和な暮らしの中に、いとこのチャールズという闖入者がやってきたから“お城”の世界が変わってしまう。「わたし」の幼い精神はいよいよ崩れ、行動は異常さを増していく。金銭のことばかりうるさく言うチャールズ。「わたし」の居場所はなくなっていくのに、彼女を守ってくれていた姉のコンスタンスまでがチャールズに同調してゆく。
たらたらと緩やかに悪意と怖さが追い討ちをかけ、物語は火事によって思わぬほうへ向かってゆく。ここから、この話はもっとも面白くなる。不安定な姉妹の言動が、料理を通して現れてゆくのだ。
シャーリイ・ジャクスンは家事や部屋の内装という一見どうでもいいところにこだわって描いているようで、それは読み手のイライラさと同調していく。とくに料理は重要な役割をしており、精神状態をも表し、惨事や謝罪のアイテムとして使われている。村人の変わりようにはずっこけてしまったが、ラストのオムレツという言葉は何故かしら不気味で、この作品の奇妙さを引き立たせているようであった。
今更ながら『くじ』が凄いことに気づきました。ああ、こういう不安定さが良いのね。ということで、本書は名作です。
追記
「奇妙な世界の片隅で」のkazuouさんのオススメで読みました。
kazuouさんの素敵な書評はこちら。
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# kazuou 『ご紹介ありがとうございます。
ジャクスンを読んですごいと思ったのは、この作品が最初でした。
なにより、雰囲気が異様に明るいのに驚きます。「信頼できない語り手」による躁病じみた世界の描写が非常に斬新で、やっぱり物語は、語り口が重要だと再認識させられましたね。
料理! なるほど、そういう使われ方をしているとは、気づきませんでした。』
# でこぽん 『kazuouさん、こんばんは。
お蔭様で読むことができました。最近は新刊ばかりなのでオススメいただかないと読まなくなっています。ありがとうございました。
なんか衝撃的な作品でしたね。そうそう。雰囲気が異様に明るいんですね。変な喋り方だし、いったいこの主人公はなんなんだろうと最後まで引きずられました。やはり躁病じみた世界だったのですよね。語り口はやはり重要です。料理の使われ方も面白かったですね。』