- 作者: 久保寺健彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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団地を舞台に、ある青年の引きもり日誌ともいえる小説。各所で絶賛されているようなので読んでみたのだが、文体が説明的なせいか、最後まで話に入り込めなかった。生活の描写は細部まで丁寧だし、主人公の心理面もよく表されているのだが、この文体では感情移入はできない。団地から同級生が一人抜け二人抜けしていくところは、主人公の哀しみを肌で感じられるくらい共感できるのだが、それも最初のうちだけで、一体主人公は何を甘えているのだろうかという思いが始終付きまとうのである。引きこもりの理由もさることながら母親の気持ちが全く表されてなかったのもそれに拍車をかけていた。一人称だから制約あるだろうが、家族としての辛い気持ちが伝わってこないのは釈然としないのである。
感情移入については作者の意図するものかもしれないが、心に重い枷を持っている者を描いていく場合、読者にそれを納得させるためには、事実を羅列するだけでは不足である。しかも今回の主人公の場合、あるトラウマのせいで自分の住んでいる団地から一歩も出ることができないのである。社会との係わり合いもなくなり、それに付随する人との係わり合いも狭い範囲内で終わってしまうのだとしたら、小説の楽しみの一つであるはずの自分の世界とは無縁のエピソードなんて読めないのだから、ワクワクした気持ちが持てる筈がないのである。無味乾燥な説明文をいくら読んでいても感動なんて起こらないのと同じように、自分の世界が広がっていかないのでは、やはり読んでいても詰まらないのである。
団地から出なくても日常生活が不自由なく過ごせるというのであれば、それ相応の描写を見せてくれれば救いもあるが、現実的にいってそれは無理なことなので、いくら生活の細部に拘りの描写を見せられても、やはりリアリティに欠ける日常生活では、主人公の成長が嘘っぱちに思えてきて物語に入り込めないのだ。ラストは引こもりの主人公がある理由から団地から出て行けるのだが、これも拍子抜けで終わってしまった。結局、引きこもりだった主人公が過去を懐かしんでいるだけの話としか思えず、将来が見えてこないのでは元気になれない。ということで、わたしには合わなかった小説でした。ごめんなさい。