
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/11/29
- メディア: ハードカバー
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いやはや、なんと表現していいのか。嬉し涙が出てきて、とにかく泣けた。素晴らしい小説だった。
物語は、逃走劇というシンプルなもの。
当時、仙台では今話題の新首相が凱旋パレード中だった。その首相の乗ったオープンカーに、空から降りてきたヘリコプター型のラジコンが爆発して、暗殺される。その実行犯として、30歳も越えて失業中の青柳雅春の名前が上がる。しかもなぜか犯人と断定されてしまい、警察の発砲なんて当たり前というとんでもない、言い訳無用の逃走劇がはじまってゆく。
第1部から第3部は、蕎麦屋のテレビで事件を知った人がおり、また病室ではリアルタイムで視聴している人がおり、そして事件が終焉して20年後の話がされていく。それらがダイジェストで語られ、さまざまな伏線が張られてゆくのである。
しかしここまでが淡白、無味乾燥。頁数としては70ページほど。ダイジェストであるのだから仕方がないと言えばそうであるが、小説としてなんら面白みがない。ところが第4部の「事件」で俄然面白くなるのである。400ページの長い頁数を割いて、大学時代の話やら恋愛話やらの過去の話を、現在のピンチな状況と交えて語っていくのだから面白くないはずがない。一つ一つのエピソードも面白いが、伏線がどんどん回収していくさまは見事と言わざるを得ない。
巨大な敵と対峙したとき、どうすればいいのか。やはり、一個人では権力に対しては無力なのか。読み進んでいくにつれ、憤りが胸にわいてくる。理不尽な思いに駆られ、どうしてこんなことになったのか、と第3部までを何度も読み返したものだ。もちろんすべての謎が解き明かされるというわけではないし、事件の真相がはっきりと語られているわけではない。しかも事件の結末はすでに知らされている。だが、大学を卒業して今では連絡も取り合ってなかったかつての仲間たちが、先輩後輩が、アルバイト先や就職で係わった人々が、あるいはまったく係わり合いのなかった人たちが、本気で心配して損得なしで主人公を助けてくれるのだ。これには心底胸が揺さぶられてしまった。
で、エピローグの第5部である。事件から3ヵ月後の話。ここはもう、涙なしでは読めなかった。とくに、ラスト5行には参った。滂沱である。ああ、良かったね、とほんとに嬉しかった。
お薦め。