恩寵/ほしおさなえ 

恩寵

恩寵

 いい話だった。ミステリともファンタジーとも言えるような、繊細で不思議な話。
 会社を辞めた若い女性が、ふと降り立った場所で草ぼうぼうの古い一軒家を見つける。そして、この廃屋同然のような家にどうしても住みたいと思う。ここから、この家にまつわる不思議な物語が幕を開ける。
 ずっと昔の話と現在の話がどんなふうに繋がっていくのか、途中までわからなくてもどかしく思うこともあったのだが、不思議と焦ることもなく、するするとその世界に浸って読み進めることができた。それというのもきっと、命を紡いでいくというテーマが根底にあったせいだろう。登場人物たちが心情を吐露していく姿に引き込まれ、無意識のうちに優しい気持ちになっていた。読み終わって、胸いっぱいの温かい気持ちにさせてくれた小説であった。
 お薦め。