空へ向かう花/小路幸也 

空へ向かう花

空へ向かう花

 ある日、違う小学校に通う、6年生のハルと花歩が出会う。ハルがビルの屋上から飛び降りようとしたとき、花歩が鏡で光を当てて自殺を止めたのだった。ハルは、女の子を殺したという。花歩は、その女の子の親友だった。
 やっぱりやっぱり小路さんの小説は、いい。
 胸がじんときて、涙をこらえるのが困るほどだった。
 そりゃあ、自殺とか虐待とか、訳ありの子供同士の会話なんて、誰だってほろりとなるだろうし、優しい気持ちになるのは当たり前かもしれない。そういう意味で子供を出すのは、ある意味反則だと思う。でも小路さんのすごいところは、子供とちゃんと向き合ってくれる大人を出してきてくれるところだ。この大人というのがちょっと変わっていて、ホームレス一歩手前という、50歳後半のイザさん。それに花屋でバイトをしている大学生の桔平さん。どちらもとても魅力のある人物だった。
 事故の加害者と被害者がいて、それぞれに嘆いて、苦しんで、悩んでいる。善人であればあるほどその苦悩は計り知れない。そんな、捻じくれ、収拾のつかなくなった事態を、大人というのは、いったいどんなふうに落とし前をつけていくのか。
 事故の詳細も多額の賠償請求についても、また、お互いの両親の苦悩もぼんやりとしか、描かれてはいない。だが、たまには何も考えずに最高に純真な心だけに触れてみるのもいいではないか。綺麗事だと言われれば返す言葉もないが、善意だけで成り立っている小説を脇目も振らずに、ただただ貪り読むのも、無上の喜びなのである。一気読み。
 お薦め。