モーニング Mourning/小路幸也

モーニング Mourning

モーニング Mourning

  ★★★★★
 友人の葬儀に出席した45歳の中年男たち。大学時代にバンドを組み、4年間一つ屋根の下で生活した5人だった。卒業後、20年ぶりに揃ったというのに、そのうちの一人は事故死していた。葬儀が終わり、福岡からそれぞれの家へ帰ろうとしたとき、俳優になった淳平が突然言い出す。「自殺するんだ。俺は」何故だ。理由を言ってみろ。言えない。押し問答が続いたあと、「俺が死ぬ理由。思い出してくれたら、死ぬのをやめる」と。そういうわけで、4人は喪服を着たまま、東京へ向かってロングドライブをすることになった。
 もう掛け値なしに良かった。
 文章のリズムとか、スッと入ってくる文体とか、過去と現在のメリハリのある話とか、あるいは軽やかな会話とちょっとしんみりした自分語りとか、なんというのか、とにかく肌に合う作家である。読んでいて実に気持ちがいいのである。とくにこういう45歳の中年男たちの大学時代の話というのは、年代が近いというのもあるかもしれないが、当時流行った歌だとか、ファッションとか、食べ物とか、そういった付属のものですでにノックアウトされてしまうのである。
 「俺が死ぬ理由」とは何か。つねに心の中では、その疑問が渦巻いているのだが、一つのエピソードが、次のエピソードを生み、次から次に出てくる「何故」が気になってしょうがない。気がせきながら、それでも立ち止まって読み耽る楽しさ。それは、きっと、過ぎ去った若き日のことを同じように懐かしみ、愛し、悔しい気持ちでどうしようもないからだろう。
 こういう一文がある。
 「何も持たないということが、学生であるというだけでその他に何も背負っていなかった、あの時代の自分の精神と身体がどんなに軽やかだったのかということを思い知る。」
 この後に続く非常に素晴らしい文章は本文で楽しんでいただくとして、この一文には心底じんとした。まったく共感を持つとともに、かつての楽しくて奔放な生活が思い出されて、何度も繰り返して読んだ。
 わたしは東京―福岡間は何度も運転しているので、ロングドライブでの車中の雰囲気がどんなものだとか、2、3時間運転したらどこのサービスエリアで休憩をとるのかとか、そういったことを知っていたので、まるで同じ空間にいるように感じられ、あとどれくらいで着いてしまうといった心配までして、女性に聞かせられない話も含め、彼らの大学時代の友情には胸が熱くなった。こんな場合、女性が混ざるとたいてい陳腐な展開になってしまってガッカリすることが多いのだが、とても印象的な女性が彼らと一緒になって遊んでくれたお蔭で、ときにはほろりと、最後まではらはらどきどきさせてもらった。
 ロングドライブの終点は、やはり感動だった。エピローグも爽やかに、大好きな一冊となった。
 お薦め。


 追記
 「でこぽんの読書通信」のほうへ加筆しました。→こちら