火群の館/春口裕子

火群の館

火群の館

 ★★★
 第2回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞した作品。
 気に入ったマンションで明日香は、真弓と共同生活を始めた。だが、入居してすぐに奇妙な出来事が起きる。最初のうちは気のせいだと言い聞かせていた明日香だが、バスルームの蛇口から大量の毛髪が現れてからは、自分が妄想に囚われているのか実際に起こったことなのか判断できなくなる。それと共に、真弓の恋人の失踪がし、ついには真弓まで浴槽で……。
 マンションにまつわるオカルト的ホラーな話。
 うーん、いったいこれはなんの話だったのかわけわからん代物だった。いかにも何かが起こりそうなオープニングも巧いし、現実と幻想が入り混じった話も悪くはない。だが、主人公の明日香の性格が強くないせいか、果たして実際に起こっていることなのか夢なのか判断できないため、怖さも半減し、真面目に読み解いていこうとする気持ちを萎えさせた。
 火事が起こったことによって人生を狂わされたり、大事な人を失ったりして、怒りやら絶望を胸に秘めて責任の在りかをはっきりさせたいと、復讐を企てるのはわかる。だが、それをオカルトと結びつけたためにせっかく面白くなりそうな謎解きも中途半端なものとなってしまい、本来なら熱いものが胸に迫ってくるオチが薄っぺらいものとなってしまっていた。
 髪の毛の使われ方はなるほどと思ったが、吸盤の意味も使われ方も意味不明のままに終わっていた。ラストは、どんなふうに纏めるのか迷ったのか、あるいは面倒になって放ってしまったのか、とにかくすべてが曖昧なままで終わっていたのには呆気にとられて脱力してしまった。
 それでも読んでいる最中は、登場人物たちの興味から、また恐怖の出所がどこにあるのかと、友人、知人、隣人たちの言動から読み取ろうとする作業は楽しかった。次作にものすごく期待。