女優/春口裕子

女優

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女優 (幻冬舎文庫)

女優 (幻冬舎文庫)

 ★★★★☆
 やっぱり春口裕子は文句なしに面白い。どろどろとした女の内面を書かせたら天下一品である。少し泥臭くはあるが。
 主人公は、美王堂という大手化粧品会社に勤める平川佳乃、29歳。学生時代からトップにいないと気がすまない性格。もちろんそのための努力は人一倍しているし、なにより、策を弄することにおいては人後に落ちないのである。そんな、常に注目を浴びてないと気がすまない見栄っ張りな佳乃が、広報部という華やかなセクションから地味な企業倫理事務局に異動になってしまったから堪らない。プライドの高い佳乃としては、とてもじゃないがこんな屈辱的なことは友人に話すことができないと思うのは至極当然なこと。どうにか知られないようにとあの手この手で動き回るのだが、事態はどんどん泥沼にはまってしまうのである。もういよいよどうしようもないと思っていたら、思わぬ出来事が佳乃を襲うのだった。
 人生のスポットライトを浴びるためには、人を出し抜いていくのは当然であろうし、そのための努力は厭わない。しかも人にどう見られるかといつもビクビクと、常に鎧を纏ってないといけない。それはまるで「女優」として演技を続けていくようなものだ。しかも出る杭は打たれるというのはどの世界でもあるように、友人からの妬み嫉みを買ってしまうのもお約束だろう。嫉妬や憎悪、あらゆる悪意が渦巻いてゆき、その攻撃は執拗さを増していくのだから、性格が少々捻じ曲がるのは仕方がないことだ。
 だが読み進んでいくうちに、主人公が可哀想になっていく。たしかに性格に問題があるのは分かっている。部屋はゴミで溢れているし、カード支払いは考えなしだし、男性の趣味も悪い。だけど、ここまで追い詰めていかなくてもいいじゃないかと、作者に殺意を覚えるくらい、だんだんと主人公に肩入れしていくのだから可笑しなものだ。この辺の感情はなかなか紙面では書き表せないものがある。やるせなくてもやもやしたものなのだ。男性の方が読むとまた違った感想になると思うが、とにかく目が離せない。途中からミステリになってしまったので、どっぷりと漬かっていた重い感情が薄れてしまったのが残念だが、最後までノンストップで読める面白い小説だった。
 お薦め。