氷の華/天野節子

氷の華

氷の華

 噂に違わず非常に面白かった。これが60歳の方のデビュー作とはとても思えない。
 35歳の主人公が、開始早々、頭にカッと血がのぼって衝動的に殺人を行ってしまう。いわゆる倒述ミステリなのだが、この後の400ページをどんなふうに展開させていくのか、不安少々いじわるな気持ちで読んでいった。
 デビュー作ということもあって、人物描写が説明調だったり少々読みにくいところもあったり、また、35歳のセレブ妻にしては、ありえないくらいの古めかしさに苦笑するところもあったが、しかしそんな欠点をものともせず、執念深く真相を追う刑事との決着のつけ方は、我を忘れて読むほど見事であった。
 ということで余談ではあるが、ちょっと突っ込んでおきたい。たとえば、セレブ御用達のブティックが青山の「雅」だとか、いつも買っているストッキングのお店が化粧品店「すみれ」だとか、行きつけの美容院が「髪友」だとか。このセンスはいかがなものか。言葉の使い方も、ファクシミリ、使い捨てのカメラ、ダイニングルーム、ヘアダイ(白髪染めなのか?)、オーディオ装置、大型のテレビ(液晶? プラズマ?)、ロングのワンピース(他にドレスは持ってないのか)、スイミングスクールに行く(幼稚園児じゃないんだから)、コンビニエンスストア、フランス人形(いまどき)等々。
 いろんな意味で楽しめる作品であった。一気読み。
 お薦め。