イジ女/春口裕子

イジ女(め)

イジ女(め)

 ★★★★
 初めて読んだ『ホームシックシアター』がことのほか気に入ってしまいこの作家を追いかけていくことにした。ということで最新刊の本書を手にとってみた。
 「目立とう精神」「オフレコ」「ミーちゃんハーちゃん」「ご機嫌なナンバー」「あんぽんたん」「やる気ナッシング」「イジ女(め)」「レッツらゴー」の8編。
 冒頭、作者の真骨頂が発揮された「目立とう精神」の素晴らしさにガツンとやられてしまって、他の作品が霞んでしまったというのは残念だったが、どの作品も一応に満足するものに仕上がっている。
 他人の生活を覗き見るのが好きなので、こういう身近な人に焦点を当てて書いてくれた作品は大歓迎だ。とくに「目立とう精神」に出てくる気取った奥様なんて、読み物としては最高。周りを取りしきり、自分の声が絶大だと自惚れているような女は一度痛い目をみたほうがいい。とは思うものの、実際はこういう輩が幅を利かしているのが現実だ。そんな狭い環境で、この場合はマンション内での勢力分布なのだが、主人公が逆襲(?)に出るという爽快さ。ただただ応援してしまった。
 ここだけの話といって、あっちにもこっちにもいい顔する女は許せない、「オフレコ」の女。職場の中で、そんな女に振り回された同期入社の二人は、もともと反目しあっていたこともあり、一人の男を巡って事態はいっそ面倒なことになり……。この振り回している女も一度ガツンと痛い目にあったほうがいい。あれ? こればっかりだ。
 ミーハーな女達の話、「ミーちゃんハーちゃん」。これも自虐的な笑いがある作品。自分はお洒落な女だし、彼氏はカタカナ職業。そんな幸せ一杯のデート中にデビュー以来の織田祐二ファンだというイタイ同級生に出会う。こんな同級なんかに会いたくなかったと思うものの、強烈な彼女の言動に巻き込まれていくうちに、いろいろと考えさせられていく。実際、幸せだし、どこにも悲嘆的なところはない。と思っている主人公だけど、30歳を祝ってくれる彼氏は……。いや、止めたほうがいいって、こんな彼氏。
 「ご機嫌なナンバー」は巨乳女の話。合コンで釣った男に奢らせるのもいいが、ほどほどにしておかないといつか逆襲を食らうって。ほんと。
 「あんぽんたん」のネーミングがぴったりの、まさにムカムカしてくるほどあんぽんたんの女の話。世界は自分中心で回っていると勘違いするのはよくあることだが、頭の悪い女が無自覚に(ほんとにそうか?)ネチネチと気の弱い者を虐めることほど傍で見ていて気分の悪いことはない。この女にぎゃふんと言わせたいと思いながら読むのだが、作者がお優しいのか、ぐだぐだの生温い展開で終わっていたのはしごく残念。
 「やる気ナッシング」はネーミングだけが面白い作品。
 表題作の「イジ女」の感想はナシ。面白かったと思うものの、後味が暗くて内容を覚えていないから。
 最後の「レッツらゴー」は笑えるほどケッサク。今までの主人公の後日談になるのだが、溜飲が下がったりと、なかなか愉快だった。
 全体的にみて無難な仕上がりを見せているが、様々な嫌な女を見てきたり、話を読んできた者にとってはこれでは少々物足りない。作者の優しい面が出てきてしまったのか、微笑ましい余韻は結構だが、話を誤魔化されたと思うところもあってのめり込むほど夢中にはなれなかった。期待していただけにちょっと残念。でもこれからも楽しみな作家として追っていこうと思ったのだった。