赤い羊は肉を喰う/五條瑛

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★★★☆
 『エデン』と被っているなと思いながら、大衆心理というテーマが興味深いので自然と最後まで読ませられたという感じ。だけどとにかく分量が多すぎる。話の方向性が見えるまで登場人物の日常を中心にして読んでいくのだが、淡々と事が進みすぎて途中の盛り上がりに欠けるのか、読了したという達成感というか、満足感が少ない。
 出だしは、いかにも江戸の下町といった雰囲気が残る八丁堀を舞台に、のんびりといい感じに始まってなかなか楽しい。主人公の偲は、堅苦しい上下関係のまったくない弱小リサーチ会社で雇われ計数屋をしている身。ご近所には、踊りの師匠の若旦那がいたり、硬派の営業マンがいたりと、とにかく退屈しない。鉱物シリーズの極東ジャーナルの野口女史や葉山も友情出演してくれているのもうれしい。葉山が入れる超絶苦いコーヒーのいやがらせは、どうやらエディが来ているせいらしい。こんな具合に美味しいところは相変わらずなのだが、事件が起こってからが長い。
 駅前にファッションビル「kohaku!」が出来て治安が悪くなり、空き巣やら暴力事件やら、街の雰囲気が悪くなってきて、どうやら「kohaku!」が街の治安を操作しているのではないかという疑惑がでてくる。そんな中、知り合った女子大生が失踪し、死体で発見されて、と物語は徐々に動き出す。
 大衆をコントロールできるのか、というテーマは非常に興味深いものだし、実際よく勉強されていて分かりやすい提示の仕方は巧い。舞台設定もいいし、登場人物のキャラも立っていて非常に楽しい。今まで暗いストイックな登場人物ばかり見てきた者としては、頭が切れるけどちゃらんぽらんな主人公は、いろんな意味で新鮮だった。だけど、物語としてはいまいち感情を揺さぶられなかった。マスコミを巻き込んだりして、もっと派手にやってくれると楽しかったかも。

追記2/28

「固ゆで卵で行こう!」のしゃおさんからトラックバックです。
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