死墓島の殺人/大村友貴美 

死墓島の殺人

死墓島の殺人

 岩手県沖の小さな島、偲母島で猟奇殺人事件が起きる。釜石南署の藤田警部補は船に酔いながら島に渡った。島は有人だったが、15歳以下の子供は全くいないし、残っているのは年寄りとおびただしい墓石だけだった。捜査を進めるうち、島が「死墓島」という不気味な名前で呼ばれていることを知る。
 まさに横溝正史の世界。
 といっても、事件の背景ではなくて内に秘めたどろどろとした感情であるが。実際、殺人の動機も手段も目新しいものは何もないのだが、そこから生まれる感情の複雑さに我を忘れて読んだ。
 かつて処刑場だった裏の歴史を知り、この島で暮らす人々の閉塞感を思うと、やり場のなさを感じる。若い人がいなくなり過疎化が進むのはなにもこの島ばかりではないが、それでも「島」という物理的に閉ざされた世界に住み続けていくのは、閉鎖的な人間関係の中にも、強い決意みたいなのを感じるのだった。
 本格ではないし、事件そのものを楽しみ方には物足りないかもしれないが、横溝正史の雰囲気が好きな方には是非お勧めしたい作品。
(次作では、渋い藤田警部補が見たいです。)