ばかもの/絲山秋子

ばかもの

ばかもの

 どうしようもない「ばかもの」がいる。だけどそんな奴でも救ってくれる人がいるのがいい。
 絲山秋子の最新作は、ひたむきに優しい女の人達の話だった。
 出だしのお粗末な情事にかなり引いてしまって、好きな絲山秋子でなければ早々に投げ出してしまうところだった。投げ出さなくて良かった。終わってみれば案に相違して、なんとまあ気持ちの温かくなる話だったことか。
 途中から主人公はアルコール依存症になり、どん底まで落ちてしまう。苦しんで、苦しんで、ふと正気に戻ったとき、思い出すのは優しさで包んでくれていた彼女ではなくて、とんでもない仕打ちをしてくれた昔の彼女だったという泣き笑い。しょうもない情事だと思った場面は、後に起こった不幸な事態から思えば、何も考えずにやれたのはなんと幸せなことだったんだろうか、ということ。優しさの種類にはいろいろあると思うが、「ばかもの」と口からひょいっと出てくる関係はほのぼのとしていていいな、と思う。人は得てして目に見えない優しさには気づかないものなのだ。
 お薦め。