夜明けの街で/東野圭吾

夜明けの街で
夜明けの街で
東野圭吾

角川書店 2007-07

asin:4048737880

Amazonで詳しく見る

楽天で詳しく見る

bk1で詳しく見る



 ★★
 一言でいうなら、不倫の話。それ以上でも以下でもない。馬鹿な男がなにをとち狂ったのか、平凡だが幸せな結婚生活を捨ててまで愛人を選ぼうとする気持ちを長々と語っている話、と解釈したのですが、マズいですか?
 かなり辛口ですし、未読の方は変な先入観を与えてしまうので読まないほうが賢明だと思います。
 さて、出だしはさすがに巧い。掴みはバッチシ。いつもの東野圭吾より軽めの語り口が妙に爽やかでサクサク気持ちよく読める。面白い。恋心が芽生えて、それが本気になっていく過程などはどきどきさせられる。でもこれって、不倫の話なのかしら、と思っているといつのまにかミステリーになっていたのには驚いた。
 そうか、これってミステリーだったのか。
 まもなく時効を迎える15年前の殺人事件に恋人が関わっているのではないかと疑い始める。「おお、ミステリーだ! やれやれやっと不倫話から逃れられる」と安堵した。がしかし、ここからが長い。浮気か不倫かの線引きはどこなのか、とか、どうして今の家庭を捨ててまで不倫相手を選ぼうとしているのか、とか、男のいやに実感がこもった心理描写は相変わらず巧い。が、自分を正当化する男の、ぐだぐだとした言い訳を読むことほど不愉快なことはない。なかなか本題に入らないのにも心底ゲッソリ。
 結局、ラストの衝撃(?)ともいえるオチを読むと、なるほど、なぜここまで不倫の話を引っ張ってきたのかわかるのだが、逆にミステリーにこだわったためにちぐはぐな印象になってしまって、全体のバランスが壊れてしまったようにも感じてしまった。
 女性のほうは契約社員だというのに妙に羽振りがよいのも「なぜ?」と思うし、男は男で家庭を持っているのにこれまた妙に金回りがよいのも引っかかる。イベントにこれほどこだわるところも解せない。十代の若者じゃあるまいし、三十代のいい大人が「イブだバレンタインデーだホワイトデーだ」と、なんとしてでも一緒にいようと画策するところは「またか」とうんざりしてしまった。女性のほうも不倫という道具を使って自分を正当化しようとするところは、とてもじゃないが共感を覚えることは出来ない。
 あれこれ不満を言ってしまいましたが、他の作家の方が書かれたのならこれでOKだったでしょう。ですが、やはり東野圭吾の作品となれば、これでは物足りない。面白くなかったとは言いませんが、あとになにも残らない作品だということだけは確かです。あ、そうそう。最後の友人の話が妙に真実味を帯びていたのには吹いてしまった。