誘拐/五十嵐貴久 

誘拐

誘拐

 面白いのか面白くなかったのか、よくわからない小説だったなあ。
 プロットはすごく面白い。だけど中身が薄いというか、同じことを何度も説明するので飽きるというか。
 今回もつかみはバッチリ。理不尽なリストラのせいで、奈落の底に突き落とされた主人公が誘拐を企てる。いったいどんな誘拐劇になるのか。なぜ総理の孫でなければならないのか。わくわくしてくる。しかし、肝心の誘拐劇がスマートじゃないせいか、ちっとも盛り上がらなかった。
 やはり、犯人側の心情をたくさん入れてくれないと、警察の捜査方法や状況説明等ばかりが詳しいのでは、読んでも読んでも味気なくて詰まらないし、緊張感やドキドキ感も感じられない。薀蓄も適当にしておかないと、読み飛ばす原因にもなる。そもそも警察官の名前が多すぎる。キャラが立ってないので、誰が誰だかさっぱりわからない。だから、誰かが総理に説明をしている場面でも、ふーん、という感じしかなかった。身代金を奪う方法は、今までに無い方法だったので、へええ、と感心したが、これもあまりにも偶然に頼りすぎていたせいか、だんだんそれはないんじゃないのか、と思うようになった。だいたい、動機が不明だし、なぜこんなことを犯人が知っているのかというところも何度もあった。極めつけは宅配便の伝票。それはないんじゃないの、ということで、はあ?となった。これですべてぶち壊し。
 すごく面白くなりそうだったのに、残念。
 でも実はちょっと泣いたのは内緒。