新世界より/貴志祐介

新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より (下)

新世界より (下)

  ★★★★★
 とにかく読みまくった。
 果たして、未来の日本はどうなっているんだろうか。語ってくれるのは、現在35歳になるヒロインだ。上巻は、12歳だったあの晩から14歳で「生きなければ」と決意するまで。下巻は、10年前、多くのものが灰燼に帰した、あの日のことだ。
 1000年後の日本、人口は極端に少なくなり、北海道から九州までには9つの町しかなくなり、人口も5万ほどになっていた。子供たちは徹底的に管理され、成長するごとにサイコキネシスのような「呪力」という超能力を身につけていく。その「神」のような人間に仕えているのが、巨大化し高度な知能を持った“バケネズミ”だった。だが、人々の住む世界は限られ、“八丁標”という結界から外に出ることは禁じられている。情報は操作・調整され、図書館の閲覧は出来ないという、偏った知識の中で生活していたのだった。ある日、主人公を含む、5人の子供たちは、たまたま“ミノシロモドキ”という国会図書館を捕まえ、暗黒時代からの話や“業魔”や“悪鬼”の話を聞きだしたのが、そもそもこの物語の発端だった。まさかこれがこれほどのおおごとになるとは知る由もなかった。
 SFファンタジーなのであろう。舞台は1000年後の未来というのだが、ちょうど1000年前の平安時代に遡ったようだった。魑魅魍魎が跋扈した、あの時代だ。咄嗟に、そういえば安部清明式神を操って、呪術で鬼を退治してたんだよなあと、ふと思い出した。他にもどこかで読んだことがあるような場面を彷彿とするのだが、SFとなればそれも仕方がないだろう。「呪力」を使って体を発火させたり、粉々にしたり、お互いの体を飛ばしたり、水の上を進んだりするのだから、これはもう漫画の世界と同じだ。面白いのは、そんな神のような強者に対抗して、「呪力」を持ってない弱者が立ち向かう姿だ。絶対的だと信じ、恐れられていた圧倒的な強者が、たった一人の異分子の出現で、あっという間に脆くも崩れ去っていく姿は、われわれの将来を考えるには充分だろう。なぜたったの1000年でここまで人口が減ってしまったのか、知識は力なりというが、それから学ぶことはなかったのか、自分は「人間だ」と叫ぶ者の気持ちが棘となって心に残り、それは生きるものの頂点に立つ「人間」の傲慢さに気づかされるのだった。
 上巻の子供の世界のほうが面白かった。大人になると、やはり無茶なことは出来なくなるのか、突飛な発想力で行動することが少なくなって、至って常識的なセリフや行いが多くなり、ファンタジーの醍醐味が薄れてしまったのが惜しい。といっても、娯楽性は十二分にあり、奇怪な生物に慣れている人には特に楽しんで読めるのではないだろうか。
 お薦め。