福袋/角田光代

福袋

福袋

  ★★
 つまらん。
 するする読める。じゃあ、するする読めるんなら面白いんじゃないの、と問われれば、それがそうでもないから困る。まず、出てくる人たちが揃いも揃って貧乏臭いのが嫌だ。夢がないとも言う。それでも、そんな、カサカサと乾いた貧乏臭い人たちの話を聞いて、ものすごいオチが待っているのであれば救われもするが、もう考えるのも面倒臭いみたいなフェードアウトの幕切れでは納得がいかないというもの。
 最初の「箱おばさん」、タイトルを見ると、奇妙奇天烈な感じがして面白そうなのだが、駅ビルの店員が、おばさんに押し付けられた箱で困り果て、皆でアレコレ好き勝手に想像していくという展開では、中身がなんであれ、どうでもよくなってくる。
 次の「イギー・ポップを聴いていますか」でも似たような展開。なんでもすぐ拾ってくる夫が、今度は何を拾ってきたかと思えば、数本のビデオテープ。どんなテープなのか自室で1本ずつ見ていくのだが、もうこの時点で先が見えてきて、どうでもよくなる。ゴミを拾ってくるという貧乏臭い感覚についていけない。
 3つ目の「白っていうより銀」。すでにタイトルで意味不明。離婚届を出してきた帰り道、駅のホームで赤ん坊を抱いた母親から、「この子を見ていてください」といきなり押し付けられて呆然とする。すると、別れた夫が戻ってきて一緒にあやしてくれて、ほっとするほのぼのとした展開に、だけどそれって、捨て子じゃないかしらという疑惑もむくむくと、読むほうもどきどきしてくる。だけどオチが平凡でつまらない。だから、白が銀であろうと、どうでもよくなる。
 なんだ、この短編集は、と思いながら、それでも止められなくて次を読んでしまう不思議さ。その4つ目のタイトルは、果たして「フシギちゃん」。派遣社員の長谷川さんは37歳。“私”より十歳年上だが、なにを考えているのかよくわからないと、みんなから陰でフシギちゃんと呼ばれている人だ。しかし彼女をフシギちゃんとたらしめるのは、やはり彼女の不可解な行動があった。え、こんなことまでするの、って、引きまくったもの。
 ドン引きしたのもつかの間、5つ目の「母の遺言」を読む。ところが、これが非常に面白かった。やはり角田の面白さは、こういう家庭内のどろどろした心うちをこれでもかと描写していくことにあると思う。母の遺言に何が書かれてあるのか、兄と妹たちは疑心暗鬼になってしまう。使い道に思いを馳せながらそれぞれが思うことは、最後まで自分勝手で自己中なもの。そんな中で、母の遺言を開けてみると、これがなんとまあ、○○だったというオチ。変なことを考えるなあ、角田光代。面白い。
 あとの3編は、「カリソメ」「犬」「福袋」。離婚した女が前夫の同窓会に出る話とか、犬を巡って離婚しそうだけどしないカップルだとか、婚姻届を出したいからと、碌でもない男を追いかける女とか、どうも楽しいと思えない話ばかりが続く。なので、感想はこれでおしまい。
 え? なんか面白そう? そ、そうかも。