深く深く、砂に埋めて/真梨幸子

深く深く、砂に埋めて

深く深く、砂に埋めて

 ★★★★★
 傑作。
 甘く切なくはらはらと、心に深く深く落ちてゆくような話だった。
 出だしは緩やかに、ラストは感動的に、一人の自由奔放に生きた女の話が始まる。それは、幼いときより自身の美貌と引き換えに男を手玉に取ってきた娼婦のような女の話である。言ってみれば「ファム・ファタール」である。「運命の女」であり、「男たちを破滅させる女」だ。
 殺人罪に問われた恋人を残して渡仏した女に、いつのまにやら魅せられていった男性が三年前に遡って語ってゆくのである。彼の手記によって次第に輪郭をなしてゆくその話は、彼女の誕生秘話から始まり、いかに幼いときから「魔性の女」と言われ続けてきたのか、まず母親の口から語られるのだった。幼少の頃より感情の赴くまま自分の欲求を満たすことだけを考えた彼女は、娼婦の真似事をし、平気で恋人を裏切り、果ては詐欺と殺人にまで関与していたのではないかと疑われてしまうのである。そのさまを、母親から始まって、恋人、友人知人が語ってゆくのである。
 男は淡々と、しかしあるときは熱情に駆られて思い悩み煩悶し、またその意気込みが空回りすることもあった。だが決して急がず、あくまでも冷静に、有名な小説「マノン・レスコー」を下書きにして、真梨幸子のロマンス・ノワール小説が幕を開けたのだった。
 お薦め。