欲しい/永井するみ

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★★★★☆
 やはり永井するみは面白い。そして案の定、えげつなかった。
 どこにでもいそうな登場人物たち。そして、それを怖いと思わせてしまうリアルさがあって唸ってしまう。悪意。それは誰もが心の片隅に抱えている感情だ。永井はそれをさらっと掬い取り、ぐりぐりとさらけ出してくれるのである。それほど人物描写が巧みで、引き込まれる。捲る手が止まらないとはこのことだ。そしてそんな物語を読ませてくれるから永井の小説は魅力的なのだ。
 本書は三人の視点で書かれている。一人は人材派遣会社を経営する紀ノ川由希子。42歳、独身。毎朝大量のサプリメントを口に放り込み、週に一度は美容院に行き、三軒のエステサロンとジム通いで若さを保っている。取引先の商事会社の取締役である久原とは、関係を持つようになって五年。割り切った大人の付き合いといっても、家庭がある相手との関係は心がすさんでゆく。当然、欲しいものもでてくる。だが、報われない心の隙間を埋めるべく由希子が選んだのは、出張ホストのテルだった。このテルが二人目の人物。
 久原と会えば会うほど飢えていく由希子。だから、久原との逢瀬の後は必ずテルを呼び、心のバランスをとる。由希子にはテルが必要だった。そんなある日、由希子の会社に登録しているありさという女性が派遣先でトラブルを起こす。ありさの離婚した夫・優也が金の無心に会社のロビーに乗り込んできたのだ。このありさが三人目である。
 飛びぬけた美貌をもつ優也であるが、執拗にありさに付きまとう。優也の暴力と借金を理由に離婚したありさである。なんとか力になってやろうとする由希子。だがありさは迷惑をかけるからと、由希子に派遣の登録を削除してほしいと訴える。
 この後どう物語が転がっていくのかは、それは本書を読んでからのお楽しみである。何でも「欲しい」と思っている者と何も「欲しい」とは思ってない者がいる。さて、いったいどちらの想いが成就するのであろうか。当然な結末と思うのか、あるいは意外な結末と思うのか、それは読む者の心の有り様かもしれない。
 ミステリとして楽しんでもいいし、登場人物の感情の行く先を楽しむのも良い。どちらにしても面白く読める小説である。
 おすすめ。