ダーティ・ワーク/絲山秋子

ダーティ・ワーク
ダーティ・ワーク
絲山秋子

集英社 2007-04-26

asin:4087748537

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 ★★★★☆
 短編だと思っていたのは、じつはそれぞれの登場人物があちこちでちょっとずつ繋がっているオムニバス形式の長編小説だった。繋がっているといっても、すぐにそれと分かる簡単なものではなくて、いろいろと頭を巡らせないと分からない代物である。ぴよぴよした頭では一度で分かるはずもなく、でも相当に興味深い人物ばかりということで、珍しくも二度続けて読んだ。仕舞いには人物相関図まで作ってしまったという作品。
 絲山さんの小説を読むときは、どうしても登場人物を絲山さんとダブらせてしまうことが多い。プロフィールを知っているというのもあるが、やはりキャラの強烈さが文章の上手さとあいまっているからだろう。今回も熊井というギタリストがそれに当たる。男前である。性別はここでは明かさないでおくが、かなり変わった人物として登場してくる。それでありながら大人だし、とても愛すべきキャラなのである。
この熊井がずっと会いたいと心の中で想っていたのが、昔一緒にバンドを組んでいたTTだ。別々の道を歩んでいる二人であるが、再び交わることがあるのだろうか。あと少しで交差するのに、という焦らされる思いで俯瞰していくのは楽しい。
 オトナの関係を見せてくれる小説だった。なんとも心地よく贅沢な小説である。突き放した物言いのなかに見せてくれる優しさ。それは最終章の「です・ます」調に見事に表れていた。装丁も見事。本を閉じるとき、くしゃくしゃと破れた表紙に思わずどきりとした人は少なくないと思う。