ボトルネック/米澤穂信

ボトルネックボトルネック
(2006/08/30)
米澤 穂信

商品詳細を見る
asin:4103014717

 ★★★★★
 いいなあ。この痛々しさ。それを否定するような軽い文体、雰囲気。どこからどこまでもわたし好みの青春小説だった。
 とても上手な文章とは思えないが、これだけ捲る手を止めさせないというのは、やはり物語への吸引力がすごいからだろう。パラレルワールドの話である。
 「兄が死んだと聞いたとき、ぼくは恋したひとを弔っていた。」という一文で始まる。これにはガツンときた。まるでこの小説を暗示してるかのような不吉さである。これは良い。そして、この予感は当たるのである。恋人が落ちた崖下を覗き込んでいたとき、主人公リョウは強い眩暈に襲われ、平行世界へ。
 もし、自分がもう一つの可能世界へ移動したとしたら。自分が生まれなかった別の世界へ迷い込んでしまったら、と。想像しただけでも楽しそうである。だが、米澤穂信の世界はまるで違っていた。痛々しいまでに残酷なのである。
 そこにはリョウの代わりに姉であるサキがいた。リョウとサキは、お互いの世界を話し合うことで間違い探しをすることになる。だんだんとわかってくる世界の違い。それはリョウを打ちのめし、絶望をさそう。サキに謎賭けのようなセリフを多く言わせることで、読者は何がなにやらわからないうちに、リョウといっしょになって不安の深みに落ち込んでいく。だが読者は、そのミステリともファンタジーとも言えない、なんともいえない高揚感に取り込まれていくのである。そして、ラストである。これには叩きのめされた。ただ絶望だけが広がってゆくのである。なのに、リョウがメールを見てうっすらと笑ったように、わたしも同じようにニヤリとしてしまっていた。最後の一文。いいなあ、こういうの。素晴らしい。