インシテミル/米澤穂信

インシテミル

インシテミル

 ★★★★★
 いやあ、久しぶりに本格が面白いと思える作品に出会えた。しかもバリバリの本格ミステリだ。
 これは素晴らしい。
 時給11万2千円という、誤植かと思える実験モニターの求人募集に釣られて12名の男女が集まってきた。しかし破格のアルバイト料には、やはり胡散臭い事情が秘められていた。円形の建物の地下で、特定のルールに従い、7日間にわたって24時間モニタリング、つまり〈観察〉されるという〈実験〉だった。しかも驚くべきことに、これは殺人ゲームを促すような仕組みになっていたのだ。時給も破格だったが、殺人を行っても犯人を指摘しても報酬は跳ね上がるようになっていた。12名の眠れない夜が始まった。
 まず、クローズドサークルにおける推理ゲームに徹した潔さが良い。ストーリー展開がいかにも本格ミステリ的であり、さくさく進んでいくさまは読んでいて気持ちが良い。ロジックが見事だったのにも驚いたが、それにも増して文章が上手いのには吃驚した。キャラが立っており、するすると読めるのは有難かった。それでなくとも12名もの人物が登場するのだ。自然と頭に入ってくれて無理なく覚えられるほど嬉しいことはない。これは最後の謎解きに向かってストレスなく読めるという高ポイントである。
 ダークな青春小説ではなかったが、本格ミステリも素晴らしかった。ということで米澤穂信はこれからも追っていきたい。
 と、絶賛しておいてなんですが、実は読み始めて関田涙氏の『晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)』と似た設定に吃驚してガッカリしたのも本当である。しかも物語の面白さは関田氏のほうがずっと上である。キャラの説明も曖昧なままだった者もいたし。ただ、ゲーム型のミステリとして的を絞ったロジックの美しさには心底陶酔してしまった。
 ということで、新本格ファンの方にお薦め。