不連続の世界/恩田陸

不連続の世界

不連続の世界

 『月の裏側』で登場した塚崎多聞が登場。といっても『月の裏側』が面白かったことは覚えていたが、多聞という男がどんな奴だったかなんて全く覚えてなかったし、どんな内容の話だったかも忘れていた。ただ、不思議な雰囲気のある話だったというのは記憶にある。
 最近、恩田陸の小説はピンとこなくてがっかりすることも多くて、とても購入してまで読もうと思うことはなかったのだが、聞くところによるとこれは『象と耳鳴り』に通ずるものがあるというのだ。あの奇妙で独特なユーモアのある世界が大好きなわたしは速攻で購入を決めた。
 で、結論から言えば、『象と耳鳴り』の可笑しなユーモア感がなかったせいか、はたまたノスタルジックなホラーを目指していたせいか、予想していた世界とは違っていた。確かに帯のあるように「詩情と旅情」にはあふれていたが、短編集なせいか連続感がなくて、もっと読みたいのにここで終わってしまうのか、という物足りなさで終わっていた。
 ところで、登場人物たちが若いのか中年なのか、または何をやって食っているのか捉えどころのない人ばかりであるのが面白かった。業界人やら医者やら官僚やらと、ステータスの高い人種の登場はそれだけで独特な雰囲気を醸し出す。主人公の多聞といえば、やはり少し変わった人種のようで、どうやら音楽ディレクターらしいのだが、掴みどころのないのはお約束のようで、ふわふわとした日常生活を送っていた。
 その多聞自身の話をした最後の短編「夜明けのガスパール」が絶品だった。友人ら4人と夜行列車に乗り「怪談やりながら、さぬきうどんを食べに行く旅」の普通の出だしが、いつしかひっくり返るような危ういさが素晴らしい。そんな奇妙な世界が、この短編集の魅力のようだ。