迷宮のファンダンゴ/海野碧

迷宮のファンダンゴ

迷宮のファンダンゴ

  ★★★★☆
 第10回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した「水上のパッサカリア」の続編である。眩暈にも似た心地よい酩酊感を味わいながら上質なハードボイルドですっかりファンになった海野碧の第二作である。相変わらず人間的側面はバッチリだが無駄に詳しい描写と長い一文にくらくらしながら、それでも存分に味わいながら最後まで楽しんで読んだ。
 一作目をついこの間読んだと思ったら文章も格段にレベルアップして、たったの半年であの大道寺勉が帰ってきた。あくまで一級整備士の自動車修理工のオヤジというスタンスは崩さないでだ。だが言動は、どこからどうみたって一級の探偵だし、優秀な軍人のそれである。
 23年前のアメリカ、過酷なサバイバルキャンプ時代に初めて愛を交わした女がテレビニュースの画面にいた。41歳である。しかし最初の性体験の相手は一生忘れないようにマリアン・ドレイパーを忘れることはなかった。18歳と19歳だったのだ。その彼女が来日中のハリウッドスターをボディガードしている最中に交通事故に巻き込まれて病院に担ぎ込まれた。見舞いに行き彼女と再会した勉だったが、数日後、一枚のDVDロムを預けたままマリアンは失踪してしまった。
 退屈な日常生活を愛している勉だった。だからスパイの真似事や銃なんて真っ平御免なのだ。だが平凡な日常は、一枚のロムによって自分の思惑とは反対の方へ進んでいった。何者かに襲われたり、正体不明のおっさんが出てきたりと、身辺が一気に慌しくなっていったのだ。愛すべき駄犬、ケイトも交えてマリアン失踪の謎に迫りながら、思いがけない結末に向かって徐々に加速していくのだった。
 届かなかった想いが切々と胸に迫ってくる。深い迷宮へ入り込んでしまった女と男はどうすればいいのだろう。その答えがここにある。
 ハードボイルドでありったけの酩酊感を味わいたい方へお薦めです。