収穫祭/西澤保彦

収穫祭
収穫祭
西澤保彦

幻冬舎 2007-07-10

asin:4344013484

Amazonで詳しく見る

楽天で詳しく見る




 ★
 時は奇しくも、ちょうど25年前の今日、1982年8月17日。激しい暴風雨に見舞われた村で14人が殺された。彼らのほとんどが鎌で首を掻っ切られ、みるも無残な姿に変わり果てていたのである。生き残った住民は3人の中学生のみ。その中学生の証言から、犯人は町で英語教師をしていた外国人男性とされる。が、彼も逃走途中に、増水した川で溺れ死んだ。それから時は過ぎ、大人になった中学生の、およそ荒唐無稽としか思えない話が始まる。第二部の1991年。第三部の1995年。そして第四部の現在。それは偶然にも本日、2007年の8月17日の話だった。
 1944枚もある分厚い本である。表紙カバーは芸術的で、思わず買わずにはいられないほどのインパクトのあるもの。さすが鈴木一成デザイン室が手掛けただけのことはある。素晴らしい。この表紙に騙されて買う人も多いだろう。でも大丈夫だ。とてつもなく面白いから。(ほんと)
 言ってみれば、黒西澤である。残虐でエロ全開なのである。今年の異常気象ともいえる40度を越す猛暑のなか、こんな血潮飛び散る大量惨殺事件、および無駄なエロスに多くの紙面を割いている話を読むのは、まさに夏の読書にはおあつらえ向きといえるのではないだろうか。まずシチュエーションが良い。さびれた村が嵐と殺人鬼のせいで、ある意味密室となるのである。おどろおどろしい雰囲気で、いかにも本格ミステリを期待させるテイストをもって始まるのである。
 面白い。面白い。面白い。ああ、面白い。こんなに面白くてこのあと大丈夫だろうか、と、一抹の不安がよぎったのではあるが。
 確かに、あまりの面白さに一気読みした。しかし、やはり不安は的中したのだ。
 読了後、脱力。なんじゃ、こりゃ。
 男子中学生の思春期特有の妄想は微笑ましい。本編に関係がない無駄なエロシーン……まあ、これもいいだろ。西澤のユーモアと思えばどうってことはない。しかし、だ。結局何も説明されてないものが多すぎる。西澤が楽しさのあまり筆が走ったというのもよく分かる。だがそれにしても、動機はクエスチョンだしラストは意味不明だし、エロといいB級アクションといい、本格ミステリとは程遠いところにきてしまったのには残念無念としか言いようがない。ていうか、もしかしてこれって、ユーモアふぁんたじー?
 いやはや、多くの西澤ファンにお薦め。

追記8/21

PNUさんの書評です。
http://d.hatena.ne.jp/pnu/20070821

 605ページ読んできて、このラストに絶望した!いや、第一部を読んでいる時は面白くて、これは傑作かもしれないぞと思ったものだが。

 「絶望した!」 くくく。まったく同感です。