猫鳴り/沼田まほかる

猫鳴り

猫鳴り

 ★★★★☆
 沼田まほかる待望の第3作。
 泣いた。涙がぶわっと出てきてどうしようもなかった。老猫を看取る話だ。そりゃあ、悲しいのは当たり前だ。誰だって最期の姿には泣けてくる。だけど、そういうお決まりのお涙頂戴の薄っぺらな話なんかじゃなくて、なんというか、自分の人生の幕引きを考えずにはいられない話だった。
 猫の小説だった。と言えれば簡単なのだが、実は意外と文学的であり、奥が深いのである。三部構成になっていて少女や少年も登場してくるが、主役はやはり猫である。と言うとやはり猫中心の話なのか、と俯きそうになるが、そう単純ではなくて、第一部と第二部で、この猫を通してみたときの登場人物の心情が細やかに描き出されているのである。 
 それは例えば、人の嫌らしさとか、対人関係の疎ましさとか、己の絶望感とかである。こういう負の感情を曝け出し、なんとも複雑でもやもやした気持ちを抱かせてくれるのだから、沼田の小説はやっぱり面白い。
 結婚17年目にしてやっと授かった赤ん坊を亡くした女が、ミーミー泣いて慕ってくる仔猫を何度も何度も捨てにいく話や、登校拒否の中学生男子が、ぺたぺた歩く可愛い幼児がペンギンみたいで気に入らないからと、ナイフで刺し殺そうとする、思春期特有のブラックホールの話である。と一転して、第三部では、老人が老猫を看取るという、切なくやるせない優しい気持ちが、紙面いっぱいに溢れているのである。
 それはおよそ、猫を通してだったが、延命処置に対する葛藤とか、ついては自分の死をどんなふうに迎えたら良いのかを、深く自問自答する話だった。それを、どこまでもどこまでも優しさ溢れる言葉で濃密に描き出してくれていたのだった。
 正直に言えば、第一部と第二部は決して楽しい話ではない。嫌悪感さえ抱くのである。なんだってここまであからさまに、無防備に近づいてくる愛らしい仔猫や幼児に対して攻撃的な態度をとらないといけないのか。全く理解できないのである。要は、読んでいて面白くないのである。しかも尻切れトンボの感もあって不満だけが残るのである。ところが第三部が終わってみれば、それまでの嫌な話だった第一部と第二部が、なんて緩やかで生命力の溢れる話だったんだろうと思えてしまうのだから不思議だ。これには驚いた。それほどまでに老猫を看取っていく話は、色々と考えさせられるのであった。
 やはり沼田まほかるはすごかった。
 猫好きの方にはとくにお薦め。