傷/深谷忠記


傷
深谷忠記

徳間書店 2007-07-20

asin:4198623589

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 ★★★★★
 以前から、セクハラ行為を受けていたと言っていたタイの留学生の訴えにより、大学教授の針生田はついに強姦未遂容疑で逮捕される。そのとき、夫に頼まれて銀行に出向いた妻の珠季は、貸金庫の中に200万円の不審な振込金受取書を発見する。冤罪を主張していた針生田は、証拠不十分ということもあって不起訴となるが、200万円の振込先になっていた女が男と一緒に焼き殺された。
 セクハラ事件と放火殺人事件。二つの事件に大学教授の針生田はどう関わっているのか。夫への疑惑。思い余った妻の珠季は、兄でありファミリーレストランの社長の白井に相談する。
 これはすごい。
 冒頭に女弁護士が出てきたところで一瞬、フェミニズム運動が主体なのかと憂慮したが全くの杞憂であった。ということで、女性の嫌らしさ強かさを無視して、完全に本格ミステリとして本書を愉しんだ。
 頭のなかで二つの事件を組み立てて接点を探していくのだが、手がかりとなる言葉や人物をつぎつぎと出してくれるため案外すぐに真相に近づけるのでは、と思うのだ。ところがそうは簡単にはいかない。いいところまで近づいているのでは、と優越感に浸っていても、伏線の使い方が非常に上手いため足元をすくわれる。とまあ、上手い文章にめろめろにされ、翻弄され、ラスト近くなって納得。そしてフィナーレを迎えるのである。ところがここで終わらないのが本書のすごさである。エンディングは鮮やかに、感動的に、である。すごい。ここまで周到に計算されたミステリを読んだのは久方ぶりのような気がする。
 素晴らしかったのであるが、一つだけ苦言を。登場人物すべてをフルネームで記述するのは止めてもらいたい。これも伏線かと思って覚えの悪い頭にすべて入れていったのであるが、つ、疲れました。
 ミステリファンにお薦め。