黒い森/折原一

黒い森

黒い森

 ★★★★
 あ、これは楽しい。読んでいて素直に楽しめる本だ。遊び心は満載に、とにかく読者に目一杯サービスしてくれているのがありありと感じられる本だった。
 まず仕掛けが凝っている。表からも裏からも読める上に、解決編が袋とじになっているのが面白い。ただ解決編というよりエピローグという感じが強いが。「生存者」と「殺人者」というサブタイトルも興味をひきつけられる。読者はどちらを先に読めばいいのか迷ってしまうが、ここは本の指示通り「生存者」から読むほうがいいようだ。物語は、両方とも基本的に同じで、旅行会社の「ミステリー・ツアー」で樹海の中に入り、ある山荘に赴くというもの。道中と山荘での出来事をお楽しみにということか。
 というわけで女性の視点と男性の視点で進んでいくのだが、「殺人者」のほうが若干ネタがバラされているので「生存者」から読むほうをお勧めする。折原氏お株の叙述があるのかどうかも、読んでからのお楽しみに。
 まあ、折原読者なら先の出来事も真犯人も易々と見破れるし、すべて思ったとおりに進んでいくので、なんら驚きも怖さもないのだが、この構成と仕掛けは素晴らしいの一言。内容的には表現が少々あっさりしているため、本格ミステリファンには物足りないかもしれないが、なかなか楽しませてくれるのは確かである。読書を楽しみたい方へお薦めしたい一冊である。