堕天使拷問刑/飛鳥部勝則

堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)

堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 ★★★★
 久しぶりの飛鳥部である。二段組475ページの分厚い本だったが、待ってましたとばかりに勢い込んで読み始めた。しかし、プロローグから妙なのである。悪魔とか魔方陣とかの言葉が出てきたかと思えば、ズルル……と庭の方で何かを引きずるような音がした、という描写があり、主人公の祖父が目を剥き、舌をベロリと出して、手足がてんでんの方向に向き、ねじくれ、関節というものがなくなって怪死していたのだと。おぞましさ全開である。そしてこのおぞましい本編を語るのが、自分のことを「私」と言う、妙に爺臭い、それでいて眉目秀麗な少年、中学一年の如月タクマ君だ。本格ミステリというより、どちらかといえばハードボイルド的味付けの、ホラーな変態小説だったと言えるかも。
 さて、我らがタクマ少年だが、じつは両親を事故で亡くして、母方の実家に引き取られことになった。そしてそこで散々な目に遭うのだが、それはなぜか。その山村では、変な信仰がまかり通っており、無茶苦茶な論法で寄ってたかってタクマに制裁を与えるべく襲い掛かってくるのだった。変に達観した親友がいろいろと助けてくれるものの、怪しげな少女や老婆、バイオレンスな青年や変態男、そればかりか、蟹女や蛇まで出てきて、唐突にどたんばたんと大立ち回りが始まるのだから、いやはや、これはもう本格ミステリのトリックがどうのと真剣に論じるものではなく、マニアックな飛鳥部ファンを喜ばすためだけに書かれたものであり、作者の趣味に走った小説といえるのではないだろうか。途中に挿まれる、本編とはまったく関係がない「第十一章 オススメモダンホラー」に至っては「?」となったが、これが非常に面白くてついつい熟読してしまった。
 ということで、本格ミステリファンの心をグッと掴んだ、遊び心満載の小説と言えよう。いくつもの殺人事件に関するトリックについては、無茶苦茶としか言えないが、大きなサプライズもあり、復帰後第一作目の飛鳥部作品としては成功だったのではないだろうか。面白かった。