エスケイプ/アブセント/絲山秋子

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★★★★★
 くっくっく。まいったなあ。自然に笑いがこみ上げてくる。ありがとう、絲山秋子。どうしよと思うくらい面白かった。

 いつかは目の覚めるときも来るってことだ。おれは目を覚まし、状況を把握し、身内の話に耳を傾け、それから旅行カバンに入るだけの荷物を持って出ていった。
 どこへ。
 さあ。
 それはこれからだ。

 この出だしの文章ですでにノックアウトだ。ああ、これから絲山ワールドが始まるんだ、と、それこそ旅行カバンに荷物を詰めながらそわそわするように、読み始めた。「どこへ。さあ。それはこれからだ。」なんか、いいよね。だからね、ちょっとやそっとでは勿体無くって語れない話なの。でもちょっとだけ。
 相変わらずとんでもなく巧い文章から、ちょっといっちゃってるとしか思えないような男、江崎正臣がつらつらと自分のことや、心の中の〈あいつ〉のことを話してくれる中篇の「エスケイプ」。それと、〈あいつ〉が三人称視点でしみじみと語る短篇の「アブセント」。
 どちらもすごく良い。正臣は40歳にもなってもまだ「どっかで暴動でも起きないかなー」とけしからん事を考えている元活動家なのだ。こいつの語りがとんでもなく楽しくて面白い。〈あいつ〉の話は「エスケイプ」の付けたしのようだけど、このスパイス的な話があるから二つの話が余計に面白くなってくるのだ。
 というわけで、ものすごくお薦め。