元職員/吉田修一

元職員 (100周年書き下ろし)

元職員 (100周年書き下ろし)

 巧いんだろう。たぶん。だけど本音を言わせてもらえるのなら言うが、どこを切り取っても面白いところは、ない。公金を横領しておいて、まんまとこのまま逃げきれるはずがないじゃないか。そんな主人公の能天気な厚顔無恥さに吐き気を覚えた。だからか。バンコクの描写はそれなりに美しいが、そうやって振り返るせいか、それまでもがだんだんと色あせて、しだいに薄っぺらいものとしか見えなかった。『悪人』『さよなら渓谷』に続いて、犯罪者の3部作として上梓したのなら、この作品はひどくつまらないものに思えた。