永遠のとなり
白石一文
文藝春秋 2007-06-15
asin:4163261907
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★★★★★
「なあ、精一郎。生きているというのは何だ」と自身に対して問いかけてみる。そうやって胸の中で呟いてみても、すぐには答えがでるわけではない。
主人公は著者と同じ1958年生まれの48歳。早稲田の政経をでて損保会社に勤めていたが、可愛がっていた部下が自殺したことで、自分もうつ病を発症してしまう。会社も早期退職して妻子とも別れ、郷里の福岡で療養をしている。そんなところへ一人息子から、大学を卒業したら専門学校に入りたいので入学金を支払ってくれという一方的な手紙をもらう。失業して療養中で先の当てがなくても、仕方がないなあと思ってこんな突飛な申し出にも応じてしまう主人公なのである。
こんな主人公と一緒になって考えてくれるのが、肺癌を発病してやはり福岡に戻っていた幼馴染みの“あっちゃん”だ。一橋の経済をでて都銀に入行するも母親の死で辞め、コンサルタント事務所を経営しても発病したため閉鎖。離婚して郷里に帰って、一見ふらふらと気ままに暮らしているような男である。
人は生まれて、生きて、死んでいく。当たり前のことだ。そんなことは誰でも知っているが、やはり考えずにはいられない。発病し、会社も辞めてたった一人になり、わずかな蓄えから息子とはいえ130万円もむしり取られ、これから先のことを考えると心細くてたまらない。いままでの人生とは何だったのか。一体どこでどう間違ってこんな羽目に陥ってしまったのか、と。病気のこと、仕事のこと、日々の生活のこと、女性との関係、こんなことをこの本は淡々と語っていく。決して急がずに。そうして終わりのほうであっちゃんは言う。「人間は誰だって、自分が幸せになるだけで精一杯なんよ」と。
二人の博多弁がなんとも心地よい。しみじみとした味わいと温かさがあって、ついつい泣いてしまう。しんみりと我が身を振り返ってみてしまうのであった。
お薦め。