真夜中のフーガ/海野碧 

真夜中のフーガ

真夜中のフーガ

 女性が描くハードボイルドとして大いに気に入っていた「パッサカリア」であるが、どうやらこれで3部作が完結したようだ。ラストがいやに強引に、しかも取って付けたような爽やかな退場だと思っていたら、こういうことだったのか。もう大道寺勉には会えないのだろうか。寂しい。
 大道寺勉ことベンは、修理工場をやりながら、副業として、世間にごろごろしているトラブルを解決するべく、仲間3人で〈始末屋〉を生業にしている。バツイチのライターやカメラマンの卵と一緒に請け負っているのだが、その中で、だいたい厄介な揉め事を持ち込んでくるのが、ヤクザ上がりの金貸し、岡野だ。今回も、昔世話になったといって、暴力団埴輪組幹部、極星会会長であるオヤジに頼まれ、目の中に入れても可愛い娘絡みの頼みごとを引き受けてしまった。それならばと、調査のついでに、逗子のJ海岸で溺死したという、自分と同姓同名で同年齢の男の自宅なり遺体の発見場所なりを見てこようと思ったベンであったが、これがとんでもない事件のきっかけとなったのは知る由も無かった
 相変わらず、めくるめく文体から流れるように繰り出される言葉に酔いながら、娘たちを強請っているのは誰で、ベンと同姓同名の奴は誰なのか、あるいは、この二つは繋がりがあるのかと、気になる謎を追いかけつつ、その一方で、ベンを捨てた母との偶然の出会いに悄然となりながら、また、他の親子の愛憎相半ばする思いに戸惑いを覚えながら、フーガのような物語をたっぷりと堪能させてもらった。
 お薦め。