九月の恋と出会うまで
松尾由美
新潮社 2007-02-21
asin:4104733024
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★★★★☆
SFミステリの要素がたっぷりな素敵な恋の物語。
2004年の夏。旅行代理店に勤める27歳の北村志織は、趣味の写真を現像しているとき、薬品の臭いで隣人とトラブルになり引っ越しを決意する。引っ越した先は、「芸術関係者」のみが住んでいる、4部屋しかないアパート。住民は、オーケストラ団員の倉に、美人外科医の祖父江。それから、どこに芸術的趣味があるのか分からない会社員の平野。ある日、部屋の壁にあいたエアコン用の穴から男性の笑い声が聞こえてきた。もっと驚いたことに、このシラノ(仮名だが)と名乗る男性は一年後の2005年からだと言う。言葉を交わすうち、隣室の男性、平野を尾行して証拠写真を撮ってほしいと頼まれる。だが、理由は全く教えてくれない。そのうち、ぬいぐるみの熊まで喋りだす始末。一体どうなってるのだろうか。
素敵な恋の物語と言ったが、綺麗に纏まっているというだけで、恋愛自体は乙女チックで面白くもなんともない。お互いどこに「好き」なる要素があるのかまったく分からないのも、恋に恋しているとしか思えないのも、単にわたしが年取ってしまったからなのかもしれないが。そんな天邪鬼なわたしでさえも、最後は感動してしまうから不思議だ。たぶんSF要素が優れていて、知らず知らずのうちに「有り得る」かも、なんて思ってしまったからじゃないだろうか。とにかくこれほど良くできたタイムパラドックスを処理した話は読んだことがない。素晴らしかった。馴染みのある都営地下鉄の大江戸線を使って説明してくれたのも良かったのかもしれない。
面白かったです。
お薦め。