風が強く吹いている/三浦しをん

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★★★★
 箱根駅伝を目指して、ど素人を含めた、たったの10人で挑戦していく話。いやあ、とにかく三浦しをんさんの文章の巧いことに度肝を抜かれてしまった。前から面白い文章を書く人だなという思いはありましたが、これほど巧い方だとは思っておりませんでした。その三浦さんが、渾身の想いをこめて書いているのがひしひしと伝わってくる作品です。面白くないわけがありません。はい、もう読み出してから500頁の作品を最後まで一度も捲る手を止めることもなく4時間半で読了です。
 これほど夢中で読めた作品ですが、読み終わった後、では満足したかというと、それがそれほどでもないんですね。で、なぜそう思うのか分析してみたのですが、やっぱりこれは漫画の世界だな、ということです。嘘くさいんですね。もちろん素人といっても、まったくスポーツに縁がなかったのは漫画オタク約一名で、他はサッカーをやっていたり剣道をしていたりと、そこそこ体を鍛えていた者たちですから、ひょっとしてひょっとするんじゃないだろうか、という気持ちも沸いてくるわけです。しかしねえ、やっぱりどう考えたってファンタジーなんですよ。「箱根駅伝」がどれだけ凄いものなのか全く理解していない素人のわたしですら、予選会までのたった半年間で駅伝に出場できて、なおかつシード権まで獲るのはあまりにも無茶すぎるんではないかと思うんですね。
 同じ箱根駅伝を書いたものに、ミステリで安東能明氏の『強奪 箱根駅伝』というのがあるんですが、こちらのほうが箱根駅伝の雰囲気はバッチリ伝わってきたし、ラストもあまりにも素晴らしくて号泣してしまったことを思い出したわけです。そうすると、やっぱりちょっと、と思ってしまう。文章は素晴らしかったんですけどね。同時期に出た「走る」ことを題材にした佐藤多佳子氏の『一瞬の風になれ』と比べてみても、わたしは『一瞬の風になれ』のほうを評価したいです。佐藤氏の文章は文体が軽くて好みではないんですが、読後感が抜群にいいんですね。
 ですが、これはこれでやっぱりすごく面白かったです。
 お薦めです。