紙婚式/山本文緒

紙婚式
山本 文緒〔著〕
角川書店 (2001.2)
ISBN:4041970091
価格 : 560円
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★★★★★
 八つの結婚生活を覗き見る面白さ、かな。これは楽しい。
 結婚して何十年も経っちゃうと新婚のときのことなんて忘れてしまうかというと、これが意外とそうでもない。可愛らしい奥様だったわたくしはお味噌汁の作り方なんて分からなくて、「なにそれ?」と言って夫を唖然とさせたり、ファッションやヘアスタイルが奇抜で田舎のおばちゃんからしたら奇異に見えていたのだろう、周囲から浮きまくって陰口を叩かれたりして、理不尽に苛められた。だからといって、黙ってそのままでいるわたくしではなかったりして。売られた喧嘩は買わなきゃ、と思いっきり言い負かしてやった。そんなこんなで、それは楽しい日々だった。
 この短編集を読んでいたら、そんな懐かしい日々を思い出して、なあんだ、私たちって結構ちゃんとしてたのね、なんて、図々しくもぷっと笑いながらよそ様の揉め事を興味本位に読ませてもらった。
 山本文緒の作品が面白いのは、人物設定にしてもプロットにしてもとんでもなく奇抜だからだ。ちょっと変わっているどころではない。こんな人物はさすがにいないだろうと思っていても、現実との境が霞んでしまうようなリアリティがあるのだ。じわじわと追い詰められて二進も三進もいかなくなった登場人物が暴挙にでるような。そんな結婚生活の、いびつさとか残酷さが際立って、まるで得体の知れないホラーでも読んでいるような面白さがあった。いい旦那さんやいい奥さんである登場人物を寄ってたかって虐めぬいて、立ち直れないくらいにすとんと崖っぷちに落としてしまうような容赦のなさに、ころりとやられてしまった。
 とにかく他人の揉め事はいつのときも面白いものである。ちらりと見える日常の狂気をさらりとした会話と情景描写で綴っていく手際は見事である。しかも表題作の「紙婚式」にほろりとさせられてしまう予想外の嬉しさもあった。何度も読み返したい一冊である。