とんび/重松清

とんび

とんび

 昭和37年、夏の終わり。28歳のヤスさんは父親になった。これは「とんび」と「鷹」の話である。
 なんの話かわからないまま読み出して、途端に、ティッシュが離せなくなった。ぐずぐずと鼻水を垂らしながら、号泣である。子供が生まれたといって、乾杯、うれしいのうといって、乾杯。なんどもなんども乾杯と、繰り返すあたりから、すっかりヤスさんにやられてしまって、気づいたら目を真っ赤に腫らしていた。
 いい話だった。
 だからといって、重松清が描く父親像がすべて理想的かといえば、逆にこんな父親は勘弁してくれと言いたい。わがままだし、天邪鬼だし、頑固だし、すぐに拳骨をくらわすし。これじゃあまるで、いいところなんてないではないか。だが、そんな無骨で不器用な男が、愛して愛して、とことん愛しながら子育てをするのである。周囲の者たちを巻き込んで、そしてまた同じように愛されながら。これでは、誰もがヤスさんを好きになるのは、当たり前である。
 お薦め。