犯罪小説家/雫井脩介

犯罪小説家

犯罪小説家

 新進作家、待居涼司は「凍て鶴」で日本クライム文学賞を受賞する。映画化の話も持ち上がり、監督、脚本、主演には、人気脚本家として売り出し中の小野川充が抜擢された。その小野川、さすが奇才と呼ばれているだけあって奇抜な持論を展開させて、待居を苛立たせ不愉快にさせていくのは天才的。なぜか、「凍て鶴」に並々ならぬ執着をし、ヒロイン美鶴に、伝説的な自殺サイトであった「落花の会」の美人主催者を重ねるのだった。
 全篇に、不快感と不穏な空気が満ち溢れている、心理サスペンスというよりホラーだった。
 ミステリとして楽しむ前に、全篇に漂っている不穏な空気にやられてしまって、謎解きどころではなかったというのが、一番惜しまれる。そもそも題材や登場人物に馴染めなかったのが大きな原因かも。そのため、相手の言葉など無視して強引に持論を展開させ、人を不愉快にさせていくキャラは、作者の意図するところであろうし、ある意味大成功といえるだろう。しかしだからといって、その会話を好んで読めるかというと、勘弁してほしいと言わざるを得ない。とくに、長々と繰り返される自殺サイトについての論証には辟易させられた。
 また、待居が書いた小説「凍て鶴」が、実際どんな小説なのか、通り一遍の説明では伝わってこないので、脚本家の小野川がどんなに、「凍て鶴」は伝説となっている自殺サイトの「落花の会」にインスパイアされたのだ、と声高々に唱えても説得力がない。しかし、なんとまあ、根拠のないことをべらべら喋ることができるんだろうと、ミスリードされたのは確かだった。
 驚きも少なかったし、あまり好きな内容ではなかったなあ。