エピデミック/川端裕人

エピデミック

エピデミック

 ★★★★☆
 舞台は、C県T市(千葉県館山市)。その、農業と漁業の町・崎浜で、インフルエンザ患者が続出する。総合病院に運ばれた患者は3人とも、突然、体全体が発火したように高熱がでて昏倒してしまったのだ。果たしてこれはSARS級の新型インフルエンザなのか。多くの患者がすぐに肺炎にまで症状が進み、為す術もなく死んでしまうのである。国立集団感染予防管理センターのフィールド疫学者・島袋ケイトは、同僚の仙水望、総合病院の高柳医師、保険所所員の小堺らと共に感染現場に赴き、感染経路の究明と疫病の元栓を閉めることに奔走する。
 「竜とわれらの時代」の川端が帰ってきたような重量感のある小説だった。竜のときも恐竜学を学ばせてもらったが、今回はあまり馴染みのない“疫学”という学問を非常に興味深く読ませてもらった。
 小説の形としては、ミステリーの体裁をとったパニック小説のようにみえる。が、単なるサスペンス小説と決め付けるのは惜しい。おそらく綿密な取材と調査を行ったのだろう。膨大な資料をもとに“疫学”の現在の立場を示し、問題点を洗い出し、今までいかにして病原体と闘い、どれほどの犠牲を払ってきたのかを語りたかったのではないだろうか。
 繰り返される状況がエンターテイメントとしてはテンポを悪くしているし、度重なる疫学用語に多少嫌気が差すこともあるが、“疫学”小説としては非常に読み応えがあり面白かった。出来ることなら、もっと子供たちの描写を入れてくれてサクサク進んでくれると有難かった。やはり川端氏の真価が発揮するのは、子供たちの心理描写や行動ではないだろうか。
 お薦め。

追記

 新婚当初、千葉県の富津市というところに5年ほど住んでいました。社宅だったので社宅料が三千円だったのでなんとかやっていけたのですが、新入社員だったこともあり、お金がなくてお豆腐を買うのも悩む日々でした。でも近くには富津公園もあって、テニスをしたり、公園で遊んだり。車で一時間も走れば館山ファミリーパーク(本書にもでてきます)もあって、お金がなくても毎日楽しかったですね。
 本書は、東京近郊のC県T市となっていましたが、すぐに分かりました(笑)。そんなこともあり、とても楽しんで読ませて頂きました。