カレンダーボーイ/小路幸也

カレンダーボーイ

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 ★★★★★
 現在48歳の三都は大学教授。同じ大学の事務局長である安斎とは小学校の同級生だ。ある日二人は、身体だけ小学5年生になっていた。2006年現在から1968年6月15日にタイムスリップしたのだ。しかも一度ならず、寝て起きるたびに精神だけが過去と現在を行き来する。目が覚めると小学5年生になり、次の日は、その記憶を持ったまま大学教授と事務局長として会話するのである。
 突拍子もない設定なのだが、そこは小路幸也の巧いところで、どんなに変な設定でも物語の枷とはならない。それどころかその設定に魅了させられてしまい、後で考えると「あれ?」と思うようなところでも夢中で読ませられてしまうのだから、さすがである。
 くたびれた中年の身体が一晩でぴちぴちの身体になるのだ。羨ましい。48歳の大人の知識に小学5年の身体が軽々と反応してくれて、まるでスーパーマンのような活躍してくれる。次第に、あたかも自分自身がその場にいるような錯覚をしてきて一喜一憂するのである。
 あのときはこうだったなあと、ぼんやりとしか覚えてないものが、いきなりワープして昭和の時代を再現してくれるのだから嬉しい。そういえば、小学校は木で出来ていたなあ、とか。もちろん机も椅子も木で出来ていたが。そのときの遊びの風景やら暮らしが目の前に出現するのである。ある年齢以上の読者なら懐かしくてたまらないだろう。
 そういうわくわくする出来事がページを捲るたびに起こるのである。が、やはり二人は48歳の大人だった。直に、なぜ自分達がこの時代に戻ってきたのか考えるのである。そして過去の出来事を変えようと思うのだった。三都は一家心中した里美ちゃんを救うため、安斎は大学を救うため。鍵を握るのが、「三億円事件」だった。この後二人の行動はお楽しみということになるのだが、過去を修正するということがどういうことなのか、この小説は教えてくれることになる。
 回収されていない伏線も多く、またすべてを語っているわけではなかったため心残りもあったのだが、それを捻じ伏せて一番大切なことを教えてくれた。大事なのは一つだけ。それは、何かを得るということは何かを失うということ。自分にとって一番大切なことは何か。そして大切なものを守るためには、やはり別の大切なものを失うことしかないのか。そういうことを、改めて考えてみる機会を与えてくれた小説であった。
 最後は、どうしようもなく切なくて切なくて、感動してしまった。
 一気読みである。
 お薦め。

追記

 ウェヴサイトで少し読んでいたものです。あんまり面白いので単行本になってから読もうと我慢していました。今回一度に読めて本当に嬉しかったです。面白くて面白くてあっという間に読んでしまいました。昭和の時代の出来事が盛りだくさんで、まるでわたしにために書いてくださったかのように楽しくてしかたがなかったです。小路さんにこの場でお礼を言いたいです。本当にありがとうございました。

追追記

 コメントを頂いたのぽねこさんの書評はこちらです。
 http://plaza.rakuten.co.jp/nopomystery/diary/200711260000/