- 作者: 歌野晶午
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/09
- メディア: 単行本
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これは面白かった。好きだなあ、こういうの。
結末がどれも“ハッピーエンドにさよなら”のものばかりの、ブラックでビターな味わいの短編、及び掌編集である。
大概の人間が、犯罪を犯すことも犯罪に巻き込まれることなく、大過なく人生を終えるはずだ。ではなぜそうではない人間が出てくるのか。その差はいったいどこから生まれてくるのか。それを歌野は見事に描き出してみせている。
さまざまな子供や親がでてくる。例えば、愛されていないどころか、無視され疎んじられていると知った子供がいたらとしたら。嘆き悲しむのは当たり前だろう。幼い頃より、学歴のない父親が職場で苦労している姿を見てきた子供もいた。よりよい学歴を取得したい気持ちになるのも無理はない。早慶にも受かり東大が合格圏内にあったのに不合格となったら、やはり浪人を選ぶだろう。そんなとき親はどうすれがいいのだろうか。いつの時代にも、子を思う気持ちは同じである。叱咤激励し、いい学校に入れたいと願う親。いじめの心配もある。実際にいじめられていた子供もいた。それを誰にも言えず、どうしようもなくなったときにとった行動とは。あるいは自分の子供がいじめをやっていたと知ったときには、親はどうすればいいのだろうか。そういえばお受験に入れ込み、熱がエスカレートして、ときには体罰を与えてしまう母親もいた。
果たして、これらの人達が特別な人とは思えない。どこにでもいる普通の人達である。それをまるであざ笑うかのように一転させてみせるのである。その出色の出来映えだったのが最後の作品、「尊厳、死」である。主人公が言う。「火薬はそれだけでは爆発しない。発火するためには火が必要だ」。このセリフでこの短編集が目指していたのが見えた気がした。
お薦め。