- 作者: 白石一文
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/10
- メディア: 単行本
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「生きる」ことをテーマに人生の意味を問いかけてきた白石が、今回はそういう鬱陶しいことは抜きにして目一杯愉しんで読める小説を書いてきた。これには驚いた。いつもは何度も読み返す哲学的な箇所が多々あるのだが、そういうところが全くなくノンストップで一気読みである。これほど没頭して読書をしたのも久しぶりのような気がする。それほど面白い。
誰もが振り返るほどの美貌の女性がいる。美帆、34歳。結婚を控え、お茶大を出てフードライターをやっている。年収は2000万。彼氏はもちろん(?)東大卒。政治家を目指すエリート記者である。
とまあ、ここまでは実に白石の好きな設定である。喧嘩売ってるのか、と思うのはいつものこと。彼氏が東大と聞いた時点で、美帆の出た大学がお茶だろうと思ったのだが、まさしくそれだったのには笑ってしまったが。いやはや。
しかし、今回はここからが面白かった。このエリートの二人に対して、正反対ともいえる男を出してきたのだ。それが龍の刺青を背負っている幼馴染みの優司である。片やエリート記者、片やヤクザ者である。考え方のまるで異なる二人を前にして美帆が思うのは何であるのか。彼女を巡る二人の男たちの間で翻弄され、揺れ動いていく葛藤がじつに読み応えがある。出生の秘密から始まり、親との繋がり方。仕事を持つ女としての考え、あるいは恋愛における嫉妬、打算にまみれた結婚観。そういうのをひっくるめて今さらのように思うのは、人としてどうあるべきなのか、ということなのである。
美帆を通して自分自身と対話していく面白さ。そしてそこから生まれてくる喜び。そういった面白さがこの小説にはある。ラストの母と子のドラマは感動的であった。
お薦め。