水上のパッサカリア/海野碧

水上のパッサカリア
水上のパッサカリア
海野碧

光文社 2007-03-20

asin:4334925413

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 ★★★★★
 第十回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。
 ミステリー文学というのがどういうものか知らないが、少なくともこの作品はミステリではない。といって、エンターテイメントかといえば盛り上がりにも欠けているし違うだろう。アクションも平坦。ところがハードボイルドとしては絶品なのである。著者は1950年生まれ。新人とは思えない筆力に惚れた。
 かつて、よろずトラブル解決請負業といった〈始末屋〉グループがあった。表の顔と裏の顔をもった主人公の、特異な境遇がもたらす長い話である。ついつい時間を忘れて読み耽ってしまった。
 そうはいっても読み始めは、ねっとりと長い一文に悩まされた。著者独特の文体であり面白いといえば面白いのだが、読点によって果てしなく続いていく一文には眩暈がしそうだった。イラついて投げ出しそうになったのも一度や二度ではない。ところがこれが不思議なのである。読んでいくうちに麻薬のように癖になって、次第に快感まで覚えてゆくのである。これには驚いてしまった。
 物語としてはそれほど複雑ではない。一緒に暮らしてたった三年ほどで死んでいった内縁の妻に対する哀しみを抱えた男が、裏世界の大物に復讐を誓う話である。緻密な頭脳で練り上げた計画をもとに、女の弔い合戦に赴くのである。冒頭、愛する彼女と共に過ごした日々が事細かに描かれている。彼女の忘れ形見ともいうべき犬のケイトと、かつての仲間たちと一緒に、ひとつやってみようか、というものである。どんでん返しも鮮やかにハートフルな作品に仕上がっている。