さよならを言うことは/ミーガン・アボット 漆原敦子

さよならを言うことは
さよならを言うことは
ミーガン・アボット 漆原敦子

早川書房 2007-04-06

asin:4150017980

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★★★★☆
 たまにはハヤカワ・ミステリでも読んでおかなくちゃ時代に乗り遅れるかな(?)と思って、二段組のちっちゃい字にもめげずに読んでみた。だけど時代に乗り遅れるもなにも、時代背景が1950年代だったよ。しかもミステリといいながら「どこがだよ!」と突っ込みたくなるくらいぐだぐだとした描写が続いていくし。途中で挫折しそうになった。
 物語は、ビルとローラの兄妹に、どこからどうみても怪しい人物に見えるアリスという女性が絡んでいくだけ。と言うと、確かにミステリには思えないね。この兄妹、幼い頃両親を亡くしたせいか、べたべたした関係。といっても世間的には刑事と教師という立派な職業をもっている。他人に寄りかからないで二人っきりでちゃんと生活しているのは偉いと思うが、愛情までもっているのはどう考えても行き過ぎのような気がする。シスコンにブラコン? ま、そんな信頼関係バッチリのところに、アリスという名の撮影所に勤める美しくて社交的な女性がやってくる。兄のビルが交通事故を起こした相手が、この彼女だったのだ。二人はたちまち恋に落ちてしまって、あれよあれよと思うまもなく結婚してしまった。まあなんとお手軽な。ところが、このアリス、若くて魅力的なのは結構なのだが、言動がどうも不可解。べちゃくちゃといつまでもお喋りは止まらないし、これだけでもくらくらしてくるのに、物語が繋がってゆかないのには参った。当時の生活習慣を読むのは面白くないとは言わないが、それにどんな意味があるのか分からないというのは辛い。断片しすぎてなかなか本筋に入らないので投げ出してしまいそうになった。ところが吃驚。これが伏線だった。
 いやはや、とちゅうからじわじわと効いてきて、ドラマチックなストーリー展開になっていった。疑惑が疑惑を呼び、誰が味方で誰が敵なのか、新しい出来事が次から次にでてきて捲る手が止まらない。さてローラは兄を守ることが出来るのであろうか。ローラのとった思い切った方法はどんなものだったのか、最後まで気が抜けない。嫉妬と妄執と裏切りが渦巻くサスペンスである。
 翻訳ものに慣れている方へ。結構お薦め。