窮鼠はチーズの夢を見る/水城せとな

窮鼠はチーズの夢を見る    ジュディーコミックス
窮鼠はチーズの夢を見る ジュディーコミックス
水城せとな

小学館クリエイティブ 2006-01-26

asin:4778010019

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★★★★★
 最近、BL本に対するアンテナがめっきり錆びてしまって、何が面白いのやらまったくわからなくなってしまっていた。それというのも、男×男という未知なる関係も大概パターンが出尽くされてしまって、そんじょそこらのBL本では満足できなくなってきたからだ。あれほど来る日も来る日もBL三昧だったのに、もうBL本に感情を揺さぶられることはないのではなかろか。男同士にドリームを見ることはないのか。一抹の寂しさを感じてしまうが致し方ない。と、そんなことをつらつら思っていたわたしだったが、いやいやいや、やはり世間は広かった。ぐおおおっと、胸のうちから湧き出るような感情を持ってしまう漫画が出ていたのである。知らなかったよ、おれ。
 「男とセックスするのは、怖いですか…?」
 うむむ。思わず唸ってしまったじゃないか。なんとまあ凄いあおり文句じゃあるまいか。これを見て即座にドキドキと変な汗をかかない奴は腐女子を名乗る資格はないだろう。
 作者は水城せとな。十年以上前に『同棲愛』という漫画で、あっちにふらふらこっちにふらふらと、ゆるい男同士の漫画を発表していた方である。古典的なコマ割りだけどしっかりしたデッサン力とともに男同士のチョットいい話を優先的に描いてきた方である。最近は、「フラワーコミックス」で活躍しているようだが、こちらのほうは興味がないので知らない。その水城せとな先生がオトナな読者(オバさんとも言う)のために激エロのラブストーリーを描いてくれていた。生きててよかったよ、おれ。
 主人公はノンケのどうしようもないヘタレな奴。優柔不断な性格が災いするのか、女性から迫られるとつい流されて浮気やら不倫やらをしでかしてしまう。そんな彼の前に、ある日妻から依頼された浮気調査員として大学の後輩が現れた。妻には伝えない代償として求めてきたのは、金ではなく「貴方のカラダと引き換えで」という信じられないものだった。
 ま、こういう展開はさまざまなところで語りつくされてきたので今更目新しさはない。ところがだ、水城の上手いところは簡単にヤラせないところにあった。そりゃそうだ。そんなに簡単にノンケの男がほいほい男にヤラせるはずはないではないか。もう引っ張る引っ張る。「男とセックスするのは怖いですか?」「…なら」「キスだけならどうですか」くううぅ。いいねえ。しかも、こんなことを言いながらその「キス」のいちいちエロいこと。いやはや参った。
 全編とにかくエロいのだ。言い寄られれば逃げるというのは王道だが、その駆け引きが胸がきゅうんとなるほどエロくていい。身体の関係だけでなく、お互いの感情のもつれ具合から何気ないカットの一つ一つまでエロさ全開である。普通のシーンのコマ割が平凡であるだけにここぞというときのカットが異常にテンションが高くて惹きつけられる。斜めに切ってあるコマだとか枠のないコマだとかで思う存分感情を出してくれているのが良い。チラリズムというか、モロ描いているわけではないのにすごいエロい。こういうコマって、不安定な印象や勢いがあって心理描写にはもってこいね。ここぞというときの大ゴマも効果的。身体全体を描いているシーンが少ないだけにその効果もバツグンである。
 最後はオトメな気分になってしまったわたしだが、こんなに読み応えにあるBL本は久しぶりだ。本当にいいものを読ませてもらった。ありがとう、水城せとな先生。んで、続編とかあるんすか、水城先生。
 ということで(ちっ、ついエロエロと熱く語っちまったぜ)、誰も読んでないと思うけど
超オススメ!
じゃあ、そういうことで。