★★
勤務小児科医の押村悟郎のもとへ、ある日、警視庁から連絡が入る。18年前に別れたまま音信不通だった二歳上の姉の千賀子が、頭に銃弾を撃ち込まれ、右半身も重度の火傷を負い、意識不明の重体で救急病院に運ばれたのだという。暴力団がらみの金融業者の事務所にガソリンを持って乗り込んだと疑われている姉。なぜかその前日に婚姻届を出しており、しかもその相手の男には殺人の前科があった。姉が瀕死の重体であるにも関わらず、夫とされる伊吹は姿を現さないまま行方を絶っていた。アパートには多額の預金通帳があり、それがすっかり引き出されていた。事故か事件か。悟郎は、姉の生活や行動を調べていくうちに、さまざまな謎に出合っていく。
真保はこの話を読者にどういうふうに読ませたかったのだろうか。主人公の悟郎の目を通して多くの謎を追いかけ、姉の人生に迫ることで慟哭するほどの純愛を見せたかったのであろうか。それならば、この内容では失敗だったと言わざるを得ない。本書はミステリ、というよりサスペンスの体裁をとっているが、ラストの真実に辿り着くまでがとにかく冗長すぎる。次から次に出てくる謎は興味を引くし、ぐいぐい物語の中へ引き込まれてゆくものの、その解決は遅々として進まず、ああ、また同じパターンなのかと、どうでもよくなっていく。一番の失敗は姉のエピソードである。彼女の性格や生き方は決して共感できるものではなく、無謀としか映らないのだ。だから悟郎がどんなに姉のことを凄い人だった、素晴らしかった、と語ろうとも、それは単に悟郎がそう思うだけで、読者としては白けるしかなく、これでは別れた姉弟の本当の理由が最後に明かされても感動することは出来ない。主人公の仕事を小児科医に設定したことは素晴らしいのだが、命の重みや大切さ、あるいは真実の愛を読者に納得させたいのであれば、終盤の語りだけでは不十分である。もっと余りある圧倒的な理由がなければこのテーマで書くことには無理がある。硬質であるが読者を引き込んでゆく筆力が素晴らしいだけに非常に残念であった。
最愛/真保裕一
Amazonで詳細を見る