天使の眠り/岸田るり子


★★★★☆
 医学部の研究室に勤務する秋沢宗一は、後輩の結婚披露宴で、13年前に同棲していた女性の名前を見つける。同姓同名なのだが、どう見ても20代にしか見えない美貌をしている。同席していた娘は、緑色の目もそのまま、当時の面影が残っていたのだが。当時、狂おしいほど愛した恋人が、たったの3ヶ月で行方が分からなくなってしまっていた。偶然の再会を嬉しく思うものの、訝しく思う気持ちも捨てきれず、全くの別人になってしまった恋人を調べ始めるのだが。果たしてこの女性は、かつて自分が激しく愛した人であろうか。彼女の周辺では次々と男が不審な死を遂げていた。
 謎の提示が巧いので、あっという間に作品世界に取り込まれてしまって、一気読みしてしまった。子供を間に置いて、男と女の考え方の違いが非常に丁寧に描写されていて面白い。子供を持つ母親が読むと、共感するはず。
冒頭、情景描写が少々くどく感じられたり、会話文が単調になったり、と不満はあるものの、伏線の張り方も巧妙で非常に楽しませてもらった。けっして明るい話でもなければ、楽しい話でもない。どちらかと言うと、嫌な部類の話に入るだろう。だが、残酷非情な行動の裏に隠された、献身的で無償の愛情を思うとき、哀しくも美しい姿が浮かんでくるのだった。読後感の爽やかさを考慮した、救いのある話となっているのも好感がもてた。