僕僕先生/仁木英之


★★★★☆
 第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作品。
 ファンタジーなんて嫌いだし、おまけに中国の歴史がてんこ盛りだというので普段だったらWにパスする作品なんだけど、やけに面白いという感想が聞こえてくるものだから読んでみた。あら、さくさく読めるじゃないの。漢字なんてちっともわからないんだけど、意外と読みやすい。中国の史実が判っていると、もっと楽しめたかも。
 ボクとキミの世界で成り立っている小説だった。タイトルからして「ボクボク」だしね。「姓は僕、名も僕、字(あざな)はそうだな、野人とでもしておくか」。と、自己紹介してくれているのか、人を煙に巻いているのか分からない御仁。しかもこの僕先生、仙人なのに可愛らしい少女の姿をしているし、口が悪いったらない。そんなふうだから、初対面からやられっぱなしで分が悪い王弁くん。とまあ、少女の姿をした「ボク」先生が、純情で気弱なニートの青年をかどわかして手玉にとるという話。あ、ちがった。雲に乗って、駿馬を走らせて、天地を駆け抜けながら二人で旅をするうちに、王弁青年が「ボク」に恋していく話だ。世界は二人のために、ってね。だけどほら、そこは何千何万年も生き続けている仙人だから一筋縄ではいかない。姿だって、可愛らしい少女の姿をしているが、もしかして本当は白髪白髭のジジイかもしれないじゃないの。気持ちはちじに乱れる、というわけ。しかも仙人と一緒の旅なんて平穏無事なはずがない。毎回刺激的で結構苦労させられる。師匠と弟子。果たして二人は、無事に家に戻ってこれるのだろうか。

「行くよ」
「行くってどこにです?」

 このセリフにはじんときたなあ。
 ということで、のんびりした柔らかい雰囲気がとても好ましい作品。面白かったです。